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ハンドケア対談

ハンドケア対談

〈やすらぎハンドケア〉を始めるにあたり、大変お世話になったソフィアフィトセラピーカレッジの池田明子校長先生と当院の看護部長の西野が対談させていただきました。(※対談は2022年5月のものです)

※池田明子先生の詳しいプロフィールは記事の最後に掲載しています。

すべては「ご縁」から・・・やすらぎハンドケアと池田先生との出会い

看護部長西野

(以下、西野)

このたびは、大変お世話になりました。先生のカレッジで当院スタッフが学ばせていただいて、本当によかったと思っております。ありがとうございました。
池田校長

(以下、池田)

いえいえ、こちらこそありがとうございました。お役に立てて何よりです。
西野
当院はご高齢の患者さまが多く、その患者さまに対して、ご家族さまに代わって何かして差し上げることはできないか、と思って始めたのが《やすらぎハンドケア》なんです。せっかくするのであれば、きちんと習ってからの方がよいと考えて、講座を探しました。
ハンドケアの講座って、たくさんあるんですね。びっくりしました。その中でも、当院の理事長や私の思いと池田先生主宰のソフィアフィトセラピーカレッジ様の考えが一番近かったので、受講させていただきました。
池田
私共の思いに共感いただきありがとうございます。これもご縁ですね。
私共はハンドケアの講座以外にもハーブやアロマの講座を多数行っており、受講後はみなさま笑顔でお帰りいただくのですが、その中でもハンドケア講座終了後の笑顔はとびきりです!
西野
そうなんですね。やはり、ハンドケアは特別なものなんですね。
実は、私自身リタイアした後には何かボランティアをしたいなと思っていて、ハンドケアを習おうと考えていたんです。
その考えを私共の理事長に話したところ、「ぜひ、今この老寿やすらぎ病院で始めてほしい」との要請があり、スタートすることになりました。
ソフィアフィトセラピーカレッジ様には、最初は4人の看護師がハンドケアを習いに行かせていただきましたが、今は院内で受講希望者が増えて来ているので、また、数名ほどお世話になります。当院ではアロマも取り入れながら施術しているので、それも含めて勉強させていただきます。
池田
ありがとうございます。ハンドケアは一見簡単に見えますが、やっていくと奥が深いものなので、続けていただくと感覚が磨かれ、技術もどんどん上がっていきます。アロマも注意点を守れば、取り入れやすいものです。ご高齢の方なら、なじみのあるバラの香りや一般受けするオレンジなどの柑橘系の香りがいいでしょう。
西野
馴染みのある香りと一般受けする香りですね。スタッフに申し伝えます。ところで、池田先生は元々、臨床検査技師をされていたそうですが、そのような方がなぜハンドケアに目を付けられたのか、ということにとても興味があるのですが、そのことについてお話を伺えますか。

なにげなく行ったハンドケアが、 笑顔につながって

池田
私は病院勤務の経験から伝統医学に興味を持ちまして、30年程前からハーブやアロマなどの植物療法(フィトセラピー)を学び始めました。 その後、2006年に縁があって植物療法の学校、ソフィアフィトセラピーカレッジを開校しました。

フィトセラピーでは、ハンドケアからボディケアまでいろいろな施術をお教えしているのですが、そのような施術を通してボランティア活動を始めた2011年に、手軽にできるハンドケアの癒し効果の高さに気づく出来事がいくつかあったのです。

私事で恐縮ですが、2011年~2012年は私の知人やお世話になった方がご高齢になったり、持病の悪化があったりで、ベッドサイドケアになることが多い年でした。

病室にお見舞いに行ったとき、手軽にできるハンドケアを何気なく行ったら、大変喜ばれて、その方のお顔が一瞬明るくなった、という経験をしたのです。

はじまりは90代の男性で、私の親の代からお世話になっている農家の方でした。
長年の農作業でごつごつした手をしておられたのですが、その働き者の手に心を込めて行ったハンドケアをたいそう気に入られ、 私もその笑顔にお会いするために、何度か病室をお訪ねして、ハンドケアを行わせていただきました。

そして介護施設でのボランティア活動も開催し始めた年でしたので、そちらでもハンドケアを積極的に行っていくことになりました。

そんな中、この素晴らしいハンドケアを何とか多くの方に知っていただくことはできないだろうかと、いろいろと思案して、2012年4月に 「ハンドケアセラピスト認定講座」を開講したのです。

講座を作る時は、 お忙しい現代人に短時間でしっかりとハンドケアの理論と実技を習得していただけるように、
1日講座でのカリキュラムを考えました。

2012年4月の開講から現在まで、1万3千人ほどの方にご受講いただいております。
当時は、キャンセル待ち3カ月の人気講座になりました。
正直、最初はそんなに多くの方が受けてくださるとは思っていなかったのですが、 世の中は人と人との触れ合いのすばらしさを求めているのだと思います。

現在はコロナ禍で、いろいろと制限がありますが、ハンドケアがもたらす心と体への癒し効果は確実なものなので、 これからも続いていくと思っております。

耳の感覚は最後まで残るかも知れないから

西野
そのような経緯があったんですね。先生もご存知の通り、医療分野でのハンドケアは、機能訓練のリハビリテーションとしてPT(Physical Therapist/理学療法士)が行う領域のものですが、当院の患者さまは平均年齢が90歳に近い方々なので、意識が鮮明でない方や認知症の方、五感がかなり落ちている方もいらっしゃいます。

そのような方でも、「耳の感覚は最後まで残るかも知れない」と考えて、患者さまへのお声がけを心がけて来たのですが、それだけではと思うようになり、「タッチをしてみよう」ということになったんです。そのため、《やすらぎハンドケア》は、リハビリというよりは癒し(ヒーリング)という考えで行っています。 元々は、「職員が患者さまに」というものでしたが、コロナ禍でご家族さまが面会できない中、ご家族さまと患者さまがふれ合うきっかけが何かないかと考えた時に、「ご家族さまにもハンドケアに参加していただいたら?」ということになったんです。

時間は15分ほどですが、きちんと消毒して感染対策をしていただいた上で患者さまにふれていただいています。
ところで、こちらに来られる生徒さんはどのような方が多いのでしょう?
池田
大きくは2つに分かれます。ひとつはご自宅でご家族やご友人、ご高齢の方など、身近な方にして差し上げたいという方。もうひとつは、看護や介護関係の方ですね。
西野
専門学校や大学でも教えていらっしゃるそうですが?
池田
客員教授を務めている九州の大学などで、フィトセラピーとハンドケアの特別講座を担当し、理学療法士や作業療法士を目指す方に受けていただいています。学生さんではなく、学校の先生が習いに来てくださるケースもあります。
西野
そういった学校でも、ハンドケアの効果や重要性が認められているということですね。
池田
そうですね。そこはご理解いただいていると思います。
西野
私は、「看護は患者さまを診て、患者さまに触れることが大事」と考えています。それを学生時代から習っておかれるのはとてもいいことですね。
池田
その九州の大学でも研究が進められているのですが、ハンドケアは認知症の進行を抑制する予防効果があるようですね。
西野
当院でもその効果は感じています。実際に、認知症で普段は体に触れると怒る方がいらっしゃいますが、その方はハンドケアをしていると段々と穏やかになられます。気持ちがいいからでしょう。
私自身、スタッフに施術してもらうこともあるのですが、気持ちが良くてときどき眠ってしまいそうになりますね。認知症の方の心が穏やかになるのもわかります。

『母の手ってこんなにも小さかったんだ』

池田
認知症の方へのハンドケア施術前後のデータを見ても、ハンドケアは物理的な効果だけではなく心理的な効果も大きく、心に響いている気がしています。
病院で施術されていて、《やすらぎハンドケア》のエピソードなどはありますか?
西野
こんな事例がありました。患者さまのご家族さまで50歳近い男性の方がいらっしゃいまして、いつもはその方の奥さまが面会に来られていました。その奥さまが「義母のために自分は何もしてあげられない」と言われていた時に「ハンドケアに参加しませんか」とお声がけをしたのですが、その方が参加された後で「次回はぜひ主人を連れて来たい」とおっしゃったんです。患者さまの実の息子にあたるご主人さまは、最初は嫌がっていたそうですが、無理やり連れて来られて、お母さまの手を握って「母の手ってこんなに小さかったんだ」と言って、涙を流されたんです。小学校以来、手を握っていなかったそうです。
池田
男のお子さんは特にそうかもしれませんね。日本の傾向として、小学生まではふれ合いが多いけれど、中学生になってからは極端に減るそうです。海外では、ハグしたり握手するふれあいの習慣がありますが、日本は違いますからね。
西野
「本当に何十年ぶりに母の手を握った。これからもまた来るね」と声に出されたときに、私たちがしていることは大したことではないかも知れないけれど、ご家族さまのグリーフケアにもなるのかな、と思いました。
その後に、その患者さまは亡くなられたのですが、ご子息さまと奥さまから「ハンドケアに呼んでいただいて、本当に感謝しています」とのお礼の言葉を頂戴しました。
ご家族さまだけでなく、患者さまが涙を流されるシーンがあったという報告も何件もありました。職員もこの取り組みをさらに進めていきたいと考えていて、院内での研修に励んでいます。
池田
患者さまご本人だけではなくご家族の方との関係や、患者さまとご家族の方の絆のケアも病院にとってはとても大事ですね。ハンドケアを院外でも活用していただき、さらに多くの方と絆を深めていただきたいですね。
西野
職員の中からは、夫婦ゲンカの予防になるかも、という声も出ています。(笑)
池田
ハンドケアは、自分が大切にされているという気持ちが施術された方の中に芽生えてきますからね。
西野
そうですね。いまは、職員が患者さまにハンドケアをして差し上げるパターンと、研修を受けたスタッフの指導の下で、ご家族さまが患者さまに施術されるパターンがあるのですが、その時に家族の過去の話がよく出て来るんです。「この手でおにぎりを握ってもらった」というふうに。私共はそのお話をお聞きするだけですが、そのような会話が生まれることに対しても、何かお役に立っているのかな、と思っています。

『母の手ってこんなにも小さかったんだ』

池田
ハンドケアの時間には、そういった会話が自然と生まれてきますよね。また、そういった時間を大切にされているのは、本当に素晴らしいことだと思います。
西野
すべての患者さまにハンドケアをして差し上げることができればいいのですが、いまはまず、ご自身でお話ができない方などを重点的に行っています。
池田
お忙しい中で、その時間を作り出すだけでも大変だとお察しいたします。
西野
普段はお声がけしても反応のない方が、ハンドケアをされると薄目を開け声に対してうなずいたりされるんです。笑顔があまりない方がリラックスされた笑顔をされていると、それだけでも「やってよかった!」と思います。
池田
私は九州の介護施設にお願いしてハンドケアをさせていただいたことがあるのですが、普段はほとんど反応のない方だったのですが、ハンドケアをすると鼻歌を歌い出したんです。しかも、声高らかに。施設の方もびっくりされていました。また、当校の講師の体験ですが、介護施設であるご婦人にローズの香りのオイルを使って施術していると、普段は何も話されない方が一言「バラ」とおっしゃって。この時も、周りの方はとても驚かれていたそうです。
西野
それは、びっくりされたことでしょう。やはり通い合うものがあるんですね。私共も、教室に通わせていただいたり、実際にハンドケアを行ったりすることで「手から心が伝わる」ことを実感しています。単にお声がけするだけでなく、触れるということは有効だと思っているので、職員には「声がけだけがコミュニケ―ションではありません」「手で伝え合う《非言語のコミュニケーション》もあるのよ」と伝えています。
職員からは「ハンドケアをしてよかった」という声を聞いているので、そのことをご家族さまのお声と共に理事長に報告すると、「うちの病院でハンドケアをしていることを世に広めて、他の病院でも取り組んでいただこう」ということになり、ハンドケアのリーフレットを作成したり、当院のホームページで紹介したりしています。
池田
やはり手は体の中でも特別な部位ですね。そもそも、看護師の方がされるのは「手当て」ですものね。
西野
そうなんです。字で書くと「手を当てる」と書きます。だから、「私たちは患者さまを診て、声をかけて、ふれようね」と職員に言っています。「看護の原点に戻りましょう!」と。
池田
「看護の原点」、いいですね。ハンドケアは施術される方だけではなく、施術する方にとってもいいケアになるようですね。そのような研究結果が出ています。だからでしょうか、ハンドケアをされている病院や施設は、館内に穏やかな空気が流れていて、職員の方も全然セカセカされていませんね。
ところで、話は変わりますが、病院ではご家族の方からいろんなご要望を受けられていると思いますが、どんなご要望がありますか?
西野
そうですね。例えば、ご自身のご家族である患者さまに「もっと食べさせてほしい」というご要望をいただくことあります。ただ、患者さまがご高齢だったり認知症が進んだりすると、どうしても食が細くなります。そんな時は誰かが傍にいて、手を握るだけでもいいのではと思っています。
池田
私の母もそうでした。食べることが大好きだった人なのですが、段々と食べられなくなったんです。なので、私は母に病室でハンドケアをしました。そのときに母が言ったんです。「今はこれが一番のご馳走よ」と。人間も次第に食べられなくなって最期の時を迎えるようになるのは、自然の摂理ですね。
西野
患者さまがそのような段階のご家族さまには、できるだけお声がけをしてハンドケアにお越しいただくよう努めてまいります。本日は、ご多用中にもかかわらず、大変ためになるお話をたくさんお聞かせくださり、本当にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
池田
こちらこそ、医療現場でのハンドケアのご様子を伺えて、心から感謝しております。ありがとうございました。
植物療法士/フィトセラピスト池田明子IKEDA AKIKO

ソフィアフィトセラピーカレッジ校長
西九州大学客員教授
一般社団法人日本フィトセラピー協会代表理事
一般社団法人日本ハンドケア協会代表理事

プロフィール
臨床検査技師として病院勤務の経験から、伝統医学に興味を持ち、その後ハーブやアロマなどフィトセラピー(植物療法)を学ぶ。
2006年東京・自由が丘にて「植物療法士/フィトセラピスト」と「ハンドケアセラピスト」の養成校を設立。
全国各地でフィトセラピーやハンドケアの講座を主催
昭和大学病院や西九州大学とコラボして、認知症予防や抗がん剤の副作用軽減など医療・介護分野での有効活用の普及をしている。
「DVDつき 心と体を癒す手のひらマッサージ」(主婦の友社)をはじめ著書多数。
夫は俳優の梅沢富美男氏

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